愛してほしいのに、愛されたいのにそうやって拒否するのはどうかと思うよ、イギリス。
といえばイギリスは嫌そうに顔を歪めた。
「なんだお前、俺が馬鹿だって言いたいのか。」
「違う違うそうじゃなくて。」
このワイン野郎が喧嘩なら買ってやるぞ、と睨みつけてくるイギリスに首を振る。若い国ならば、真っ青になるような鋭い目線もフランスには効果がない。イギリスが小さい頃から知っているのだ怖いはずがなかった。
「だから、愛されたいならもっと素直になりなさいって言ってるの。」
「どうせ俺はひねくれ者で嫌われ者だよ。これで満足か?帰れ髭。」
ぷい、と顔をそむけてグラスを煽る。
「こらこらイギリス、せっかくのボジョレ・ヌーボーなんだ、そんなやけ酒みたいな飲み方しないでくれる?」
「うっせ、俺の勝手だろ。」
「ダメ。」
イギリスの手からするりとワイングラスを抜き取り、テーブルの上に置く。それもさりげなくイギリスの手が届かない位置に。不満そうな顔でグラスを見つめているがこのまま酔っぱらわれて暴れられては困るので期待に応えてやるつもりはない。今夜、決着をつけるつもりだったのだ。幸いなことに、イギリス自身動くのがだるいのか眠いのかで取り戻す気はないようだった。フランスからみると古臭いセンスのソファーにだらりと寄りかかっていてイギリスに、フランスの相手をする気がないようだ。しかし、フランスはめげない。その気がないのならださせるまでだ。
「ねえ。」
今までの雰囲気をすべて取り去ってフランスは言った。珍しくも真剣味を帯びたその声色にイギリスの瞳がぴりっと反応する。
「愛されたくはないの?」
静かに力強く、言葉を紡ぐ。この問いに答えは求めておらず、ただ求めるのはイギリスの反応ひとつだ。
緑の森の色をした目がぐらりと揺れながらフランスを見返した。刺すような視線は己の気持ちを上手く隠しながら、しかしフランスの真意を探ろうとしている。いつもそうだ。自分の気持ちを見えないところに隠してから相手の気持ちを知ろうとする。かわいそうなくらいに臆病ものなのだ、俺の思い人は。
「愛されたいでしょ。だってお前はずっと一人じゃない。兄には嫌われ、弟には独立されて。いっつも一人で生きてきた。」
「黙れよ。」
「孤独には飽き飽きしてるんじゃないの?なのに、愛を受け入れようとしないのは何で?
……知ってるよ、怖いんだろ。」
一枚、また一枚と木の葉を捲っていく。グリーンの葉で遮られて覗き込むことができない森の奥深くに荒々しく踏み込んでいく。
無遠慮で無配慮な行為だった。それでもフランスにやめる気は毛頭ない。
「だから、そうやって俺を受け入れない。
本当は俺のことが好きなくせに。」
な、と言いかけた彼の唇にそっと指を滑らす。ワインで湿った唇は艶やかで一瞬フランスは衝動のままに舐めとろうかと思ったが寸でのところで思いとどまった。それよりも優先しなければいけないことがある。
「ねえ、愛は怖くなんかないよ。お前を幸せで満たす。」
「……いつかは、無くなる。そして俺を傷つけるんだ。」
確信的で確定的な響きだった。まるでどうすることもできないような真理を嘆くような、そんな響き。それはあまりにも悲しすぎるものだった。
「無くならないよ、たとえ消えたように見えてもまた生まれる。
だってお前は新しく生み出したじゃない。」
がさがさと払いのけ続ける。やめはしない。
「ねえ、失うことに怯えて傷付くことを恐れて手に入れることを諦めないでよ。お願いだから、俺を受け入れて。愛させて。」
プリーズ、とイギリスの言葉で懇願する。するととうとう耐えられなくなったのかイギリスは固く目を閉じた。
固く、きつく、フランスを拒絶するかのように。
「やめろ、そんな目で俺を見るなよ。」
ふるふると頭を振って、緑を閉ざしたイギリスをぐっと抱き寄せた。
冷たい。冷たい体だった。アルコールの余韻はすでに消えてしまっているのだろうか。
抵抗する力を押さえつけて、固い体を抱きしめる。
「イギリス。」
耳に口をよせて低く、甘く囁く。耳が敏感らしくぶるりと震えた彼は、小動物のように小さく弱弱しくこちらを見上げてきた。それもそうだ。彼の傷をぐりぐりと踏み荒らしたのだ。なんともひどいことだが問題はない。これからじっくりねっとり可愛がって癒してあげるつもりなのだ。
「お前がそんなこと言ってもやめてあげないよ。
お前が受け入れてくれるまで、ずっとずっと。
何年も何十年も何百年も。
だからね、諦めちゃいなよ。そうすれば楽になる。」
「…………。」
いくらかの沈黙の時間を経て
溜息をつく気配が腕の中からして、フランスは静かに笑った。
抵抗がないということはoui、でいいのだろう。
鬱蒼と茂った緑が終わり、視界が開けた。
そこは煌々と太陽に照らされて美しかった。
森=英の心の中です。
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